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南北朝期の茶の名産地 [食に関する情報]

橋下素子さん(公益社団法人京都府茶業会議所理事、当時)が書いた「中世の喫茶文化-儀礼の茶から『茶の湯』へ-」(吉川弘文館、2018年2月1日発行)を参照すると、南北朝期(1336~1392年)に成立した『異制庭訓往来』「三月復状」は、日本の茶の名産地をランキングした最初の史料だそうです。

■「異制庭訓往来」による南北朝期の茶の名産地ランキング
南北朝期の『異制庭訓往来』「三月復状」は、日本の茶の名産地をランク付けした最初の史料である。

我朝の名山は栂野を以って第一とするなり。仁和寺、醍醐、宇治、葉室、般若寺、神尾寺、これ補佐たる。此の外大和宝尾(室生)、伊賀八島、伊勢河居、駿河清見、武蔵河越茶、皆これ天下の指言す所なり。仁和寺及び大和・伊賀の名所処々の園に比べ、瑪璃を以って瓦礫に比するが如し。又栂尾を以って仁和寺・醍醐に比すは、黄金を以って鉛鉄に対すが如し。末流の名誉あるを以って、殊に本所の価声を振う。

とある。「第一」=1位が栂尾高山寺で、「補佐」=2位グループが6ヵ所あり、その中に宇治がある。栂尾と2位グループを比較すると、「黄金」と「鉛鉄」ほどの違いがあるとする。なかなか厳しい評価である。
 
 同じく南北朝期の玄恵『遊学往来』「四月往状」にも茶の名産地があげられる。これは『異性庭訓往来』を踏まえて書かれたもので、大方の産地が重なるが、新たに伊勢小山寺・石山寺・近江比叡が加えられている。
 
■出所:橋本素子・著「中世の喫茶文化-儀礼の茶から『茶の湯』へ-」53~54ページ


中世の喫茶文化: 儀礼の茶から「茶の湯」へ (歴史文化ライブラリー)

中世の喫茶文化: 儀礼の茶から「茶の湯」へ (歴史文化ライブラリー)

  • 作者: 素子, 橋本
  • 出版社/メーカー: 吉川弘文館
  • 発売日: 2018/01/22
  • メディア: 単行本


さて、「異制庭訓往来」に載っている茶の名産地12ヵ所の中で、現在の京都府と奈良県にある名産地が8ヶ所です。

残りの4ヶ所は、3位グループの伊賀八島(伊賀八鳥)、伊勢河居、駿河清見および武蔵河越です。この中で、伊賀八島(伊賀八鳥)と伊勢河居がある現在の三重県産の緑茶は「伊勢茶」と総称されており、武蔵河越がある現在の埼玉県のお茶は「狭山茶」に統一されています。

一方、「駿河清見」は現在の静岡市清水区興津清見寺町にある「臨済宗妙心寺派巨鼇山清見興国禅寺」(清見寺)を指すそうです。

静岡市がある静岡県は、農林水産省が作成した「茶をめぐる情勢(令和2年3月版)」を参照すると、栽培面積(シェア39.8%)と荒茶生産量(シェア38.7%)において日本一の茶生産県です。

静岡県産の緑茶は「静岡茶」と総称されていますが、牧之原・磐田原・愛鷹山・小笠山山麓、安倍川・大井川・天竜川流域の山間部などをはじめとする20を超える茶産地があることから、多くの銘柄茶があります。

200416磐田原台地の茶畑01、磐田市寺谷2232付近.JPG
~ 磐田原台地の「磐田茶」の茶畑(静岡県磐田市寺谷)、2020年4月16日撮影。

200416磐田原台地の茶畑04.JPG

全国茶生産団体連合会・全国茶主産府県農協連連絡協議会が設置・管理しているウェブサイト「茶ガイド」に載っている「都府県の茶産地と銘茶紀行」を参照すると、静岡県には40近くの銘柄茶があります。

県東部:沼津茶、富士茶、裾野茶、両河内茶、庵原茶、本山茶(安倍本山茶、駿河本山茶)、安倍茶、藁科茶、梅ケ島茶、玉川茶、井川茶、美和茶、足久保茶、新山茶、朝比奈玉露、岡部茶、藤枝茶、志太茶、榛原茶、相良茶、川根茶、金谷茶、島田茶、御前崎茶

県西部:掛川茶、菊川茶、小笠茶、袋井茶、磐田茶、大城茶、天竜茶、森茶、春野茶、水窪茶、渋川茶、浜北茶、浜松茶

■出所:「茶ガイド」(全国茶生産団体連合会・全国茶主産府県農協連連絡協議会)


新訂 緑茶の事典

新訂 緑茶の事典

  • 出版社/メーカー: 柴田書店
  • 発売日: 2020/05/05
  • メディア: 単行本



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「西尾の抹茶」、地理的表示(GI)登録消除 [食に関する情報]

農林水産省Webサイトの「地理的表示保護制度(GI)」ページを参照すると、農林水産省は2020年2月3日、西尾茶協同組合(代表理事:杉田愛次郎さん)による登録失効の届出があったため、地理的表示(GI)「西尾の抹茶」(登録番号第27号)の登録を消除したそうです。

世界的な抹茶ブームが続いていますが、このブームを牽引しているのは、茶道用の高級な抹茶ではなく、抹茶スイーツ、抹茶系ドリンクなどに使う加工用原料としての需要です。

厳格な生産行程管理が規定されている地理的表示保護制度の下ではコストがかかり、加工用抹茶市場においては価格的に対抗できないために登録抹消を届出たと思われます。

わかりやすく言えば、「名を捨てて実を取る」ということだと思います。

170502西尾の抹茶めぐり10、新茶茶摘みセレモニー.JPG
~ 2017年5月2日に西尾市上町の稲荷山茶園公園近くの棚式被覆栽培茶園で行われた「西尾の抹茶 八十八夜行事」における新茶茶摘みセレモニーで撮った写真です。

170502西尾の抹茶めぐり12、新茶茶摘みセレモニー.JPG


抹茶BOOK

抹茶BOOK

  • 出版社/メーカー: 主婦の友社
  • 発売日: 2018/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


さて、「地理的表示(GI)保護制度」とはどのような表示制度なのでしょうか? 農林水産省Webサイトの「地理的表示(GI)保護制度ページを参照すると、次の説明が載っています。

■「地理的表示(GI)保護制度」とは?
地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が多く存在しています。これらの産品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」です。農林水産省は、地理的表示保護制度の導入を通じて、それらの生産業者の利益の保護を図ると同時に、農林水産業や関連産業の発展、需要者の利益を図るよう取組を進めてまいります。 ※下線は渡邉が引いた。

■出所:農林水産省ホームページの「地理的表示(GI)保護制度」ページ

特許庁が2019年度に実施した「令和元年度 知的財産権制度説明会(実務者向け)」で配布されたテキスト「地理的表示(GI)保護制度の概要について」を参照すると、地理的表示(GI)は次の通り定義されています。

■「地理的表示(GI)」の定義■
地理的表示とは、農林水産物・食品等の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質や社会的評価等の確立した特性が当該産地と結び付いているということを特定できる名称の表示をいう。

■出所:特許庁作成テキスト「地理的表示(GI)保護制度の概要について」1ページ

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「銘柄茶」と商標登録の関係 [食に関する情報]

「地名+商品名」から構成される商標は以前、原則として商標登録ができませんでしたが、地域ブランド育成の早い段階で商標登録を受けられるようにするため、2006年4月1日に「商標法の一部を改正する法律」が施行され、地域団体商標制度がスタートしたことで「地名+商品名」から構成される商標登録が可能となりました。

特許庁ウェブサイトの「地域団体商標検索ページ」で検索すると現在、河越抹茶、川根茶、掛川茶、西尾の抹茶、美濃白川茶、宇治茶、宇治玉露、宇治抹茶、八女茶、知覧茶、CEYLONTEA(せいろん てぃー)など27件の「お茶」が商標登録されています。主なものは次の通りです。

■主な地域団体商標登録されたお茶と定義(順不同)

・川根茶:静岡県榛原郡川根町及び川根本町(旧・中川根町及び旧・本川根町)で生産される緑茶

・伊勢茶:三重県産の緑茶

・西尾の抹茶:愛知県西尾市・安城市・幡豆郡吉良町で生産された茶葉を同地域において碾茶加工・仕上げ精製し、茶臼挽きした抹茶

・宇治抹茶:京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した茶を、粉砕・挽臼加工した抹茶(2020年2月17日登録)

・政所茶:滋賀県東近江市政所町及びその周辺(君ケ畑町、蛭谷町、箕川町、蓼畑町、黄和田町、杠葉尾町)産の茶

181021政所茶産地をめぐるツアー09.JPG
~ 2018年10月21日に行われた「政所茶 産地をめぐるツアー」で撮影(滋賀県東近江市政所)。

181021政所茶産地をめぐるツアー05、茶畑(滋賀県立大学栽培).JPG





さて、地域団体商標登録された「お茶」は、「銘柄茶」でしょうか? 

私は、「商標登録茶=銘柄茶」ではないと思っています。特許庁ウェブサイトの「商標とは」を参照すると、「商標とは、事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)です。」と明記されています。

商標登録を行うのは、お茶の供給者(生産者、中間流通業者、販売者など)です。お茶を購入する消費者ではありません。したがい、供給者の付けた名称が「銘柄茶」となるには消費者に広く認められることが不可欠だと考えます。

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「銘柄茶」とは? [食に関する情報]

 「銘柄茶」の名称は基本的に、産地、品種、イメージなど、その命名(ネーミング)は自由に行われてよいものですが、一般消費者が著しく優良だと誤認するような誇張、誇大した表示にならないようにしなければなりません。

 また、既存の「銘柄茶」に極めて類似した名称(=フリーライド/ただ乗り)は避けるべきです。さらに、名称中に「品質」、「安全性」を示すものは合理的な理由がない限り避けるべきです。


茶の事典

茶の事典

  • 出版社/メーカー: 朝倉書店
  • 発売日: 2017/09/15
  • メディア: 大型本



 さて、全国茶生産団体連合会と全国茶主産府県農協連連絡協議会が運営管理するウェブサイト「茶ガイド」において紹介されている「都府県の茶産地と銘茶」、一般社団法人本場の本物ブランド推進機構「本場の本物」認定品目、特許庁「地域団体商標」登録案件および農林水産省「地理的表示保護制度(GI)」認定産品を参照して、現在流通している「銘柄茶」を分類すると、「原産地(荒茶の産地)+『茶』」から構成される産地銘柄がほとんどです。

・産地銘柄 :狭山茶、静岡茶、西尾の抹茶、伊勢茶、八女茶、知覧茶など
・品種銘柄 :やぶきた茶
・栽培法銘柄:伊勢本かぶせ茶
・製法銘柄 :宇治茶(産地銘柄ではない)、深蒸し掛川茶、焙炉式八女茶
・イメージ他:四方の春(伊藤園の登録商標)、不帰(かえらず)

191004西尾の抹茶めぐり09.JPG
~ のぼり旗「西尾の抹茶」、「稲荷山茶園公園」(西尾市上町稲荷山)で2019年10月4日撮影。

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~ 看板「朝宮茶主産地」、滋賀県甲賀市信楽町上朝宮で2018年12月27日撮影。

200410垂井特産「不帰茶」01.JPG
~ (「不帰」という地名伝説から縁起のよいお茶と言われる)看板「不帰茶(かえらずちゃ)」、岐阜県不破郡垂井町で2020年4月10日撮影。

 上記の「銘柄茶」の中で認知度がずば抜けて高い「宇治茶」は、「宇治」という地名を冠していることから、宇治市産または宇治市がある京都府産のお茶を示す産地銘柄だと認知していする一般消費者がほとんどだと思います。

 しかし、公益社団法人京都府茶業会議所の「宇治茶」の定義と地域団体商標登録された「宇治茶」の指定商品を参照すると、「宇治」は、お茶の産地ではなく「宇治茶製法」を指していることがわかります。

■京都府茶業会議所による「宇治茶」の定義
>宇治茶は、歴史・文化・地理・気象等総合的な見地に鑑み、宇治茶として、ともに発展してきた当該産地である京都・奈良・滋賀・三重の四府県産茶で、京都府内業者が府内で仕上加工したものである。ただし、京都府産を優先するものとする。※下線は wattana が引いた。(出所:公益社団法人京都府茶業会議所ホームページ)


■地域団体商標「宇治茶」の指定商品
京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶。(出所:特許庁ウェブサイト「地域団体商標検索ページ」)


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ペットボトル入り緑茶飲料3種類(綾鷹・伊右衛門・抹茶入りお~いお茶)を比較しました〔水色・原材料・添加物・パッケージなど〕 [食に関する情報]

サントリー食品インターナショナル株式会社(本社:東京都中央区)は、同社の2020年3月17日付ニュースリリースを参照すると、~2004年発売以来の最大のリニューアルを行った~ 緑茶飲料「伊右衛門」を4月14日より全国で販売開始しました。

200418サントリー伊右衛門02.JPG
~ (手前が)リニューアルされた新「伊右衛門」、525ml入り/希望小売価格税抜140円。(奥は)旧「伊右衛門(炙り茶葉入り)」。

前掲のニュースリリースを参照すると、サントリー緑茶飲料「伊右衛門」は、「サントリー独自の技術で緑茶本来の鮮やかな緑の水色(すいしょく)を実現」しているそうです。


お茶の科学 「色・香り・味」を生み出す茶葉のひみつ (ブルーバックス)

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  • 作者: 大森 正司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/05/17
  • メディア: 新書



そこで、サントリー「伊右衛門」、伊藤園「抹茶入りお~いお茶」および日本コカ・コーラ「綾鷹」の3種類の(いずれも抹茶入り)緑茶飲料の使用原材料・添加物、水色(すいしょく)、パッケージなどを比較してみました(味覚は対象項目外)。

200420ペットボトル茶比較02.JPG
~ (左から)日本コカ・コーラ「綾鷹」、サントリー「伊右衛門」、伊藤園「抹茶入りお~いお茶」。いずれも525ml入り/希望小売価格140円(税抜)。

200420ペットボトル茶比較05、水色(液色)比較.JPG
~ 水色(液色とも)の比較。(左から)日本コカ・コーラ「綾鷹」、サントリー「伊右衛門」、伊藤園「抹茶入りお~いお茶」。

次に、使用している原材料と添加物をパッケージラベルに印刷されている一括表示欄(義務表示事項欄)の「原材料名」欄で確認しました。なお、3種類とも、原材料と添加物は記号「/」で区分されています。

200420ペットボトル茶比較04、綾鷹一括表示.JPG
~ 日本コカ・コーラ「綾鷹」、「原材料名:緑茶(国産)/ビタミンC」。

200418サントリー伊右衛門05、新の一括表示.JPG
~ サントリー「伊右衛門」、「原材料名:緑茶(国産)/ビタミンC、酵母粉末」。

200420ペットボトル茶比較03、抹茶入りお~いお茶一括表示.JPG
~ 伊藤園「抹茶入りお~いお茶」、「原材料名:緑茶(日本)、抹茶(日本)/ビタミンC」。

パッケージラベルを比べると、「綾鷹」と「抹茶入りお~いお茶」はシュリンクラベルを使っていますが、「伊右衛門」のラベルはシュリンクタイプではないので、はがしやすく、食品表示が読みやすい(写真撮りしやすい)ラベルです。

200420ペットボトル茶比較06、包装フィルム比較.JPG

キリンビバレッジの「生茶」は、製法が違うので、この比較では対象外としました。

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