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豊蔵さんの「水月窯」・・・(2)「虎渓茶」は江戸時代の銘柄茶だった [美濃桃山陶の地探訪]

・・・(1)臨済宗南禅寺派「虎渓山永保寺」 からの続き

  岐阜県土岐市泉町久尻にある土岐市美濃陶磁歴史館において2017年9月15日から11月26日まで、特別展「お茶と美濃焼」が開催されました。この特別展において、2003年(平成15年)9月15日の大規模な火災により焼失した永保寺寺院跡の再建工事に伴う発掘調査の出土品である天目茶碗・青磁碗・白磁鉢(中国 元~明時代)、天目茶碗(瀬戸美濃 室町時代)、天目茶碗高台 墨書「巨」(瀬戸美濃 室町時代)、森忠政寺領充行判物(1591年、永保寺蔵、写真パネル)などの資料が展示されました。

  特別展「お茶と美濃焼」の図録の22~23ページに載っている「コラム2 永保寺の茶園」を読んで、虎渓山永保寺に茶園があったことを知りました。そこで、虎渓山永保寺の茶園について調べてみると、『多治見市史(通史編・上)』(1980年8月1日、多治見市発行)の第7章「宗教と寺社」第3節「寺院」の「虎渓山の茶園」の項に茶園の存在を裏付ける複数の資料が載っていました。

■多治見市史「虎渓山の茶園」より引用〔抜粋〕・・・
虎渓山に茶園のあったことは余り知られていないが、茶園についての初見はつぎに掲げる森忠政の寺領充行判物(あてがいはんもつ)である当寺茶薗弐拾七石六斗餘、寺領として申付候、并谷中山林共遣候上は、末代相違有べからず候、仍状件の如し  天正拾九年十月十一日   (森)忠政(花押)     巨渓寺 27石6斗余の茶園は明治まで続いた。「略縁起」に「阿曽伽渕南の岸の上は茶園なり」とみえ、現在の山吹町あたりにあったと思われる。『新撰美濃志』岡田啓の長瀬村の項に、「防丘詩選」名古屋漢詩人千村夢澤撰安永二没の中の木実聞名古屋漢詩人木下蘭皐宝暦二没の「遊虎渓記」をあげそのなかに「茶園数十頃(けい)」(頃とは百畝をいう)、寺僧茶採り四方に貸す」と茶畠が一面に広がっている様子を記している。 文化7年に永保寺は高山村の源四郎に茶師の免書を出し、虎渓山茶の栽培と販売を委託した。このお茶は「其製甘味也、世に茶を嗜む(たしなむ)の徒これを賞翫す」『美濃雑事記』とみえて、なかなか評判がよく特産物として珍重された。(略) *下線は渡邉が引いた。
・・・引用終わり

日本山海名物図会5巻 [2] (国立図書館コレクション)

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  さて、日本各地の農業・水産業・林業・鉱業等諸産業についての江戸時代の図解書『日本山海名物図会』(全5巻、平瀬鉄斎・編、長谷川光信・画、1754年原刊)の巻2に掲載されている「茶 名物大概」に、近江滋賀来、近江越渓、駿河安倍、美濃虎渓、伊勢川俣、駿河足久保など24の銘柄茶が紹介されています。

1797日本山海名物図会(5巻中の2巻)、茶名物大概.jpg
~ 『日本山海名物図会』巻2に掲載されている「茶 名物大概」

  この24の銘柄茶の中で、「美濃虎渓」は虎渓山永保寺のお茶、「近江越渓」は臨済宗永源寺派大本山「瑞石山(ずいせきざん)永源寺」(滋賀県東近江市永源寺高野町41)のお茶を指すと考えられます。国文学者で茶人でもある上田秋成(1734~1809年)は、日本の煎茶書を代表すると評される『清風琑言』(せいふうさげん)(1794年刊)において近江・永源寺のお茶「越渓茶」、美濃・永保寺のお茶「虎渓茶」などを賞賛しています。

■上田秋成『清風琑言』の「品目」の項より抜粋■

洛北妙心寺の花園、近江の永源寺の越渓、土山の曙 永雲寺製、美濃の虎渓 永保寺製、播磨の仙霊 粟賀生蓮寺製、山僧の手製、利の為ならざるは佳品也。それを名として、郷民の出せるは品降(クダ)れり。 *下線は渡邉が引いた。


  なお、虎渓山永保寺の観光用駐車場、観光用駐車場から境内への通路沿い、虎渓霊園などに現在も、茶の木が植えられています(実生=茶の実から芽吹いた茶株もあります)。虎渓霊苑への入り口付近から通路沿いに植えられている茶の木を初めて見た時は、整枝などの管理が行われているので、「寺で消費する自家製のお茶=番茶」ではないかと期待しました。しかし2022年2月15日、境内で掃除をしていた雲水(※2)に「お茶を作っているのか?」と尋ねると、「僕らが刈っている。でも、お茶は作っていない」との回答があり、虎渓山永保寺にある茶の木は、製茶用ではなく、生け垣であることがわかりました。
(※2)農耕作業や掃除などの肉体労働を作務(さむ)と呼ぶそうです(参照:虎渓山永保寺「虎渓山案内パンフレット」)。

220530虎渓山永保寺06.jpg
~ 2022-05-30 虎渓山永保寺、通路沿いの茶の木(新芽時期)

231109虎渓山永保寺01、参道沿いの茶の木.jpg
~ 2023-11-09 虎渓山永保寺、通路沿いの茶の木

・・・(3)豊蔵さんと虎渓山永保寺 へと続く


日本山海名物図会5巻 [2] (国立図書館コレクション)

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