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食品の安全性確保のために重要なこと [食に関する情報]

2003年7月1日に発効した
「食品安全基本法」の目的は次の通りです。

この法律は、科学技術の発展、国際化の進展その他の国民の食生活を取り巻く環境の変化に的確に対応することの緊要性にかんがみ、食品の安全性の確保に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び食品関連事業者の責務並びに消費者の役割を明らかにするとともに、施策の策定に係る基本的な方針を定めることにより、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進することを目的とする。

※「食品安全基本法」第一条(目的)から引用しました。

今回発生した広域集団食中毒事件において、
「食品安全基本法」が定めている国および地方公共団体の責務、
食品事業者の責務、そして消費者の役割が、
それぞれ正しく果たされていたかどうか疑問です。

「食品安全システムの実践理論」 (新山陽子・編、昭和堂発行)の中で
新山陽子さんは次のように述べています。

食品の安全確保に対する責任は第一義的には、食品を製造する事業者 (生産者・企業)、規制をおこなうべき側 (政府・公共機関)に求められる。

しかし、消費者にもリスクへの対応が求められる。家庭内などで食品を適切に取り扱うだけではない。社会的な意味における責任として、食品とその生産過程やリスクに対する知識を獲得し、バランスある判断や行動、発言をしていく必要がある。消費者は必ずしもリスクの一方的な受け手ではない。

 ※同書6ページから引用しました。

病因食品、病因物質、病因施設の特定を行い、
食中毒を発生させた直接の責任者 (加害者)を確定させるだけではなく、
国および地方公共団体、食品事業者および消費者が
食品由来のリスクを排除する (食品の安全性確保)ためには
それぞれが何をすべきなのかを
今一度確認する必要があると思います。

単なる犯人探しだけで終わってしまうなら、
同様の食中毒事件が再発すると思います。

また、
「食品安全基本法」には定められていませんが、
マスメディアの役割も重要だと思います。

情報提供のプロであるマスメディアは、
格安焼肉店、行列ができる焼肉店などの
グルメ情報だけを単に提供するだけでなく、
食肉を生で食べることのリスクを
消費者 (視聴者、読者)に同時に伝えるという
役割を果たすべきだと思います。

食肉を生で食べることのリスクが
消費者にきちんと認知されていたら、
今回の食中毒事件がこんなに深刻な事態に
ならなかったかもしれません。

食中毒事件が発生してから、
生食の規制が形骸化している、
食品衛生管理が悪いなどと、
行政、食品事業者を声高に非難するだけではなく、
情報提供のプロとして果たすべき役割はなかったのかと
自問して欲しいと思います。

もちろん、
食品由来のリスクについて情報提供するのは、
国および地方公共団体であり、食品事業者の責務です。

国および地方公共団体は (*注①)、
食肉の生食・加熱不足による食中毒についての
注意喚起を以前から行っています。

(*注①)
 具体的にいうと、厚生労働省、農林水産省、食品安全委員会、
 都道府県の食品衛生を所管する部局、保健所などです。

110505食品安全委員会、「食品安全」.JPG

しかし、
消費者にきちんと伝わっていなかったようです。

きちんと伝わらなかった理由は、
行政による注意喚起が不十分だったからかもしれません。
効果的な手法ではなかったのかもしれません。

一方、
行政による広報の内容は地味なものが多く、
積極的に行政による広報を入手している
消費者は多くなかったと思われます。

また、
食品事業者は販売にマイナスになるような
情報提供には消極的だと思われます。

そこで、
情報提供のプロの
マスメディアの出番であり、
そこに存在価値があると思います。

ところで、
生食用の食肉なら、
生で食べても大丈夫なのでしょうか?

安心はできますが、
100%安全だと言えるのでしょうか?

生食用の食肉でも、
保管方法、調理方法などにおける
衛生管理が不十分なら、
健康被害を受ける可能性を
排除できないのではないでしょうか?

(より安全なのは、食肉を十分加熱することです)

また、
生食用の食肉以外を生食として提供した場合の
罰則を設けるなどの新たな法的規制を実施したら、
食肉の生食による健康被害はなくなるのでしょうか?

(現在でも、食中毒を発生させた場合、原因施設の責任者は、
 行政上の責任=食品衛生法違反に対する行政処分 、刑事上の責任、
 民事上の責任を負わされる場合があります)

食品の安全性確保においては、

~100%安全 (ゼロリスク)な食品はない~

という考え方が必要だと思います。

そして、
この考え方をベースにして、
政府および地方公共団体、食品事業者および消費者が
「食品安全基本法」にうたわれている、
それぞれの責務と役割を再確認した上で
食品の安全性確保システムの総点検が必要だと思います。

もちろん、
マスメディアも役割を果たさなければならないのは
言うまでもないことです。

食肉を生で食べるときのリスクは、
食肉を十分加熱して食べるときのリスクよりも高い!


食品安全システムの実践理論

食品安全システムの実践理論

  • 作者: 山田 友紀子
  • 出版社/メーカー: 昭和堂
  • 発売日: 2004/04
  • メディア: 単行本


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コメント 8

rtfk

ナマはそれなりのリスクがあることは理解してますが
提供するお店をどこまで信用するか・・・でしょうか。
by rtfk (2011-05-09 09:11) 

punchiti

値段が高い店なら安心というわけにもいきませんね。
特に生肉への細菌の付着は腐っているのとは違うので
見た目や匂いでは判別できないでしょうし。
by punchiti (2011-05-09 11:43) 

yanasan

今回の食中毒事件でも責任のなすり合いをしていますね
by yanasan (2011-05-09 19:42) 

かずい

この間、焼肉屋さんに行った時、久々にユッケを食べました。
熊本に行ったときは馬刺しが美味しかったです。。。

でも、生肉は当分食べれないし、焼肉もレア気味で食べてましたが、
ちゃんと火を通さないとダメっすね・・・。
by かずい (2011-05-09 21:29) 

wattana

rtfk さん、肉のことをよく知っているオーナー/調理人がいる信頼できる飲食店であれば、安心できると思います。
表面を焼く 「たたき」という食べ方もあります。
by wattana (2011-05-10 06:46) 

wattana

punchiti さん、ご指摘の通り、高級店なら大丈夫だとも言えませんね。食べるなら、何度も利用している信頼 (安心)できるお店だと思います。
by wattana (2011-05-10 06:49) 

wattana

yanasan さん、責任のなすりあいは、焼肉店と食肉卸業者の間だけでなく、行政においてもあると思います。
消費者及び食品安全担当の特命大臣が、厚生労働省に規制強化を強く求めていますが、彼女が担当する消費者庁は、消費者の危害を未然に防ぐための注意喚起を行うという役割を怠っていたと思われます。今回の事故発生以前には「食肉の生食に注意」といった注意喚起を行っていなかったのに、事故後、「食肉の生食には注意」という文書をホームページに掲載しました。他人を批判するだけなら、マスメディアと同じです。
by wattana (2011-05-10 06:56) 

wattana

かずいさん、牛肉は熱をかけ過ぎると美味しくないので、生または生に近い状態で食べたほうが、美味しく感じると思います。一方で、生で食べると食中毒のリスクが高まります。低リスクをとるか、美味しさをとるかという選択ですが、お子様は低リスクな食べ方を選択すべきです。・・・いろいろ書きましたが、私自身はけっこう高リスクな食べ方をしています。
by wattana (2011-05-10 07:05) 

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