エッセイスト、フードジャーナリスト、食文化研究家の向笠 (むかさ)千恵子さんが書いた「すき焼き通」(平凡社新書、2008年10月15日初版第1刷)という新書があります。

すき焼き通 (平凡社新書)

  • 作者: 向笠 千恵子
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2008/10
  • メディア: 新書



この 「すき焼き通」に次の記載があります。

ともあれ、牛肉を分類すると、大きくは輸入品と国産品に分けられる。正確に言うと、「和牛」「国産牛」「輸入牛」となり、和牛が最高級品。これには黒毛和種、褐毛和種、日本短角、無角牛の四種類があるが、黒毛和種がこのうちの八割以上を占める。国産牛は和牛四種以外であって、乳牛や交雑種も含む。また、日本で生まれたり肥育された牛を指すから、たとえば輸入された子牛を育てても国産牛という区分になる。~ ‘おいしいのは黒毛和種?’という項 (同書76ページ)から引用しました。アンダーラインはwattanaが引いたもの


これは、正確ではありませんね。

◆牛肉を原産地 (=最も長く飼養された場所)で分類すると;

  ・ 国産牛 = 日本国内で最も長く飼養された牛 (国内産牛とも)
  ・ 輸入牛 = 海外で最も長く飼養された牛 (オーストラリア産牛など)

 の2つになります。

◆牛の品種で分類すると;

  ・ 黒毛和種、褐毛和種、日本短角、無角和種 (和牛を構成する品種)
  ・ ホルスタイン種、 ジャージー種 (乳用種)
  ・ アンガス種、 シャロレー種 (肉専用種)
  ・・・など

◆和牛と表示できるのは次の6つの品種;
  ① 黒毛和種
  ② 褐毛和種
  ③ 日本短角
  ④ 無角和牛
  ⑤ ①から④までに掲げる品種間の交配による交雑種
  ⑥ ⑤に掲げる品種と①から⑤までに掲げる品種間の交配による交雑種
  ※ ⑤と⑥の場合は、「和牛間交雑種」または交配した品種の組み合わせを
    併記しなければならない。

「和牛等特色ある食肉の表示に関するガイドライン」を参照しました)
 ご覧になりたい方は → こちら

以上のことから、

 ~国産牛は和牛四種以外~

という記載は、おかしいことがわかります。

なぜならば、日本国内で最も長く飼養された‘和牛’は、国産牛だからです。



では、どうして

 ~国産牛は和牛四種以外~

と記載したのでしょうか?

それは、スーパーマーケットなどの小売店における食肉表示に惑わされているからだと思われます。

>和牛の表示は、‘黒毛和牛 (国内産)’と記載されていること多いが、正確には‘国産牛黒毛和種’である
  
>一方、ホルスタイン種の表示は、‘国産牛’と記載されていることが多いが、正確には‘国産牛ホルスタイン種’である

いい点 (和牛)は強調し、隠したい点 (ホルスタイン種)は省略するのが、販売者の心理のようです。

なお、JAS法が定める 「生鮮食品品質表示基準」は、畜産物 (食肉)の表示について義務付けているのは〔名称〕と〔原産地〕の2点なので、上記の強調と省略は法律違反ではありません。

(備考)ここでは話がややこしくなるので、海外で生産された‘和牛’についての説明は省略しました。