総務省統計局は2014年3月14日、

「家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市(※)ランキング(平成23年(2011年)~25年(2013年)平均)」

を公表しました。

(※)2007年4月1日現在で政令指定都市であった都道府県庁所在市以外の都市(川崎市、浜松市、堺市及び北九州市)。

しゅうまい、喫茶代、カステラなど32の品目については、支出金額が多い上位5都市がグラフ表示されているほか、肉類、調理食品、外食といったジャンル別の詳細(エクセルファイル)をダウンロードすることができます。

総務省統計局が毎年公表するこのランキングは、餃子の消費量日本一宣言をしたい都市、喫茶支出額日本一を謳いたい都市などにとっては、とても気になるランキングです。

ちなみに喫茶代の年間支出額が多い上位5都市は次の通りです。

  ① 名古屋市  12,168円
  ② 岐阜市   11,031円
  ③ 神戸市    8,720円
  ④ 東京都区部  8,548円
  ⑤ 川崎市    8,048円
    全国平均   5,255円

名古屋市と岐阜市の喫茶代の年間支出額が飛びぬけて多いことがわかります。

名古屋市の喫茶代支出が多いこと、珈琲所「コメダ珈琲店」チェーンが全国制覇を目指し積極的な店舗展開を行っていることなどから、「名古屋の喫茶店」の注目度が高くなっていると思います。


~ 「名古屋の喫茶店」の代表格の珈琲所「コメダ珈琲店」チェーンの総本山である株式会社コメダ(名古屋市東区葵3-12-23)の本社ビル、2014年4月1日撮影。1階に珈琲所「コメダ珈琲店 葵店」(直営)、敷地内に姉妹店の甘味喫茶「おかげ庵 葵店」(直営)があります。

 

さて、「名古屋の喫茶店」についての記載がある本が出版されており、名古屋人の喫茶店好きについて解説をしている本もあります。

たとえば、経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之さんは、著書「カフェと日本人」(講談社現代新書、2014年10月20日発行)の「第三章 なぜ名古屋人は喫茶好きか」で、「名古屋の喫茶文化」について次の様に解説しています。

名古屋の喫茶文化を歴史的に整理すると、宗春時代の茶を喫するという地域住民の遺伝子(DNA)が大正期のカフェー・パウリスタに受け継がれ、昭和30年代以降の個人店の林立やサービス競争で一気に拡大したのだ。・・・・(高井尚之・著「カフェと日本人」108ページより引用)



カフェと日本人 (講談社現代新書)

  • 作者: 高井 尚之
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/10/17
  • メディア: 新書



フリーライターの大竹敏之さんは、著書「続・名古屋の喫茶店」(リベラル社、2014年2月22日発行)の喫茶コラム④「名古屋人の喫茶愛の礎は茶の湯文化にあり」で次の3つのポイントを挙げ、尾張徳川藩政期から脈々と育まれてきたそんな精神性が、現在の喫茶店を愛して止まない気質にもつながっていると解説しています。

 1.とび抜けて多い名古屋文化圏の喫茶代
 2.ゆたかな環境と殿様の志向で茶の湯が庶民にまで浸透
 3.一服を楽しむ心のゆとりが喫茶文化を育んだ


続・名古屋の喫茶店

  • 作者: 大竹 敏之
  • 出版社/メーカー: 星雲社
  • 発売日: 2014/02/28
  • メディア: 単行本



高井尚之さんと大竹敏之さんが、名古屋人の喫茶店好きの原点は尾張徳川藩第七代藩主・徳川宗春が奨励した茶の湯にありと解説しているのに対して、昭和7年(1932年)4月15日に発行された「百萬・名古屋」(編集:島洋之助、名古屋文化協會発行)にカフエーと喫茶店に関するとても興味深い記載があります。

喫茶店
名古屋人は、とてもよく茶を飮む。抹茶の風流を説き大通を以て「拙オホン」を極め込む名古屋人だ。夫れだから名古屋には喫茶店が多い――と云ふのは少し早計だ、喫茶店で珈琲や紅茶を飲む者は決して土着の名古屋人ではない。少なくとも喫茶店のボックスに腰をおろして珈琲を飮もふと思ふ人間は、新時代の空氣を吸つてゐなけなばならない。抹茶から紅茶へと一足飛びには行けない。抹茶は抹茶、紅茶は紅茶である。 (略) 喫茶店は昔の掛茶屋、水茶屋が近代的とカムフラジーたものに過ぎない。近代人は先づ何より速力的(スピーディー)であり感覺的である。そこでさつぱりとした感じのいい室で茶を呑む氣分を愛する。名古屋市内の喫茶店は次第に此の要求に應じて來た。今市内に於ける有名喫茶店を紹介しやう。 (略)・・・「百萬・名古屋」(編集:島洋之助、名古屋文化協會発行)139ページより引用しました。


「百萬・名古屋」を読むと、この本が出版された昭和初期は、カフエーと喫茶店が分化されていたことがわかります。

喫茶店はカフエーより安價で大衆をひきつける 名古屋市内の喫茶店は此点でいよいよ発展して行くものと思はねばならない。抹茶から紅茶へ名古屋人の近代生活は喫茶店の発展に比例するものと云つていい。・・・・同書141ページから引用しました。


カフエーなどの女給がサービスをする風俗営業店と区別するために純喫茶という呼称が始まるのが昭和初期です。

「百萬・名古屋」は、愛知県図書館、名古屋市鶴舞中央図書館などで原本または2012年に出版された復刻本の閲覧ができます。