SSブログ

「美濃桃山陶」、美濃焼が最も輝いた時代 -(2)美濃桃山陶と荒川豊蔵- [東美濃のミュージアム]

♪ 「美濃桃山陶」、美濃焼が最も輝いた時代 -(1)尼ヶ根古窯 -瀬戸黒のはじまり- の続きです。

桃山時代に美濃において畿内を中心に流行した茶の湯の影響を受けて、黄瀬戸、瀬戸黒、志野、織部といった新しいやきものが誕生しました。

これらのやきものは美濃桃山陶(美濃桃山茶陶とも)と総称されており、岐阜県土岐市、可児市および多治見市の土岐川以北を中心とした地域で生産されました。美濃桃山陶が生産されたのは桃山時代から江戸時代初期(16世紀後半から17世紀前半)にかけてなので、(「桃山時代のやきもの」ではなく)「桃山様式のやきもの」と解説する専門家もいます。



さて、志野と瀬戸黒で国の重要無形文化財技術保持者(人間国宝)に認定された荒川豊蔵さん(1894~1985年)が1930年(昭和5年)4月11日、岐阜県可児市にある牟田洞古窯跡において、関戸家が当時所蔵していた志野筍絵筒茶碗「銘 玉川」と同じ筍絵の志野陶片を発見しました。荒川豊蔵さんは著書「縁に随う」(日本経済新聞社、1977年2月発行)の「志野窯発見」の項において、この志野筍絵陶片の発見について次の通り書いています。
______________________________________________________________________________
(省略)
連れだって牟田洞の谷あいに入れば、杉、雑木の林である。谷川から数メートル上、雑木の葉の散り積むあたりに陶片があると知らされ、そのところを葉かき分けて掘る。天目、鉢、円五郎(サヤ)などの陶片が出る。始めて間もない。ほの白いものを掘り出す。取り上げてみた。
志野である。

てのひらに収まるほどの小片だが、ゆずはだで、火色の小さな筍が一本描いてある。

なんと、一昨日丸文旅館で魯山人とながめた筍絵筒茶わんと同手ではないか。あれの筍二本のうち、小さい方のある部分である。

体中が、かっと熱くなる。えらいことになったぞ。口には出さぬが、心の中では、大声で叫んでいた。

夢中になった。さらに掘る。次に出たのはねずみ志野である。鉢のへりに当たる陶片だ。
(省略)
道のり十数キロ。途中で日が暮れ、満月が出る。峠道を登りながら、こんなに見事に志野窯を発見したことが、信じられないようにも感じる。まさか、キツネに化かされて、木の葉でも拾ってきたのではあるまいな、と妙な疑いも生じた。立ち止まる。峠の上であった。ポケットから陶片二つを取り出し、月明かりで、かざし見る。まぎれもない。やはり志野である。
※引用:荒川豊蔵・著「縁に従う」89~91ページ。_______________________________________________________________________________

上記の「一昨日丸文旅館で魯山人とながめた筍絵筒茶わん」とは、名古屋の関戸家が当時所蔵していた志野筍絵筒茶碗「銘 玉川」(現在、徳川美術館所蔵)のことです。

この発見により、黄瀬戸、瀬戸黒、志野、織部などの桃山陶が愛知県瀬戸市で焼かれていたというそれまでの日本陶磁史の定説が覆されました。荒川豊蔵さんは志野陶片を発見した翌日も久々利大萱の牟田洞窯跡で発掘を行い、志野の陶片を収集しています。その中に、国宝志野茶碗「銘 卯花墻」(三井記念美術館所蔵)と同じ文のある陶片、住吉手と呼ばれる志野橋文茶碗と同じ橋の文様の陶片などがあったそうです。

荒川豊蔵さんが発見した陶片の一部は現在、岐阜県可児市の「荒川豊蔵資料館」において常設展示されています。

191115荒川豊蔵資料館13.JPG
~ 「荒川豊蔵資料館」(岐阜県可児市久々利1644-1)。

191115荒川豊蔵資料館23.JPG
~ 荒川豊蔵さんが岐阜県可児市の牟田洞古窯跡で採集した陶片。

191115荒川豊蔵資料館24、筍絵陶片.JPG
~ 荒川豊蔵さんが牟田洞古窯跡で採集した志野筍絵陶片。

志野陶片の歴史的発見は 、荒川豊蔵さんが当時工場長を務めていた鎌倉の星岡窯の経営者である魯山人により発表され、一大センセーションを起こしたそうです。

東美濃にある古窯は、専門誌により紹介されたことにより美濃古窯発掘ブームが巻き起こり、乱掘、盗掘が進み地元から陶片が流出することにつながった一方で、古窯跡調査から桃山陶の復興を目指す陶芸家も現れたそうです(参照:土岐市美濃陶磁歴史館発行「元屋敷窯発掘史」)。

・・・「美濃桃山陶」、美濃焼が最も輝いた時代 -(3)国指定史跡「元屋敷陶器窯跡」- へ続く。

nice!(83)  コメント(0) 
共通テーマ:グルメ・料理

nice! 83

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。